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院長解説

2026.06.08

【院長解説】妊娠中に歯肉が腫れやすい本当の理由と、安定期に歯科を受診すべき理由

妊娠前から虫歯になりかけている、もしくは軽度の虫歯と診断を受けてはいたが、妊娠をきっかけにつわりなどの体調不良が続き、歯科医院への受診機会を失っていて、痛みの発生を契機に受診する妊婦さんがいます。受診の時点でかなり進行していて、神経を取る虫歯になってしまっている方も、年に数回ほど見受けられます。

「歯肉から血が出るけど、妊娠中だから仕方ない」「つわりで歯ブラシを口に入れるだけで吐き気が…」という声はよくお聞きします。でも、そのままにしておくことには、思ったより大きなリスクが潜んでいます。今回は、妊娠中にお口の中で何が起きているのか、なぜ安定期に歯科受診が大切なのか、そしてつわりの時期でもできるケアのコツまで、丁寧に解説します。

妊娠中の口のなかで何が起きているのか

妊娠中は女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の分泌量が急増します。これが歯肉の組織に直接影響し、「妊娠性歯肉炎」を起こしやすい状態を作ります。具体的には、エストロゲンが特定の歯周病原性細菌(プレボテラ・インターメディア等)の増殖を促進し、プロゲステロンが歯肉血管の拡張を促すため、歯肉全体が腫れやすく、出血しやすい状態になります(日本歯科医師会)。

同時に、つわりによる嘔吐で口腔内が酸性に傾きやすくなります。胃酸は歯のエナメル質を溶かすため、つわりが虫歯リスクを高める要因になります。さらに、少量頻回の食事は口腔内をときどき酸性に保ち、自浄作用が追いつかない状態を作ります。わずかな唾液の変化も口腔内の細菌バランスを崩し、歯周病菌が増えやすい環境を作ります。

これらが重なり、妊娠中は「ちょっと気を抜いただけで血が出た」「歯肉が腫れている」といった状態が進行しやすいのです。

妊娠性歯肉炎を放置するとどうなるのか

はっきり申し上げると、妊娠性歯肉炎を放置することで大きなリスクが生じます。

歯周病への移行というリスクがまずあります。妊娠中は免疫機能が変化し、歯肉炎から歯周病(歯を支える骨や組織まで破壊される病気)への移行が起きやすい時期です。歯周病の環境では、特有の病原細菌が産生する炎症性物質が血流に乗り全身を巡る可能性があります。

そして、複数の疫学研究で示されているのが、妊娠中の重い歯周病と早産・低体重児出産リスクとの関連性です(日本歯周病学会・e-ヘルスネット)。歯周組織で産生される炎症性サイトカインが子宮内膜の受容体に作用し、子宮収縮を促す可能性が検討されています。因果関係はまだ完全に解明されているわけではありませんが、口腔内の炎症をしっかり制御することが、赤ちゃんへのリスクを減らす意味でも大切なことです。

また、虫歯の進行というリスクもあります。遅延した受診では、小さな虫歯が神経まで達する大きな虫歯に進行していることが少なくありません。神経を取る処置(歯内治療)はかなりの時間と負担がかかります。妊娠中は撮影や口腔内の検査に制限が生じる場合もあり、平時より治療計画が立てにくい状況があります。

「妊娠中は歯科に行ってはいけない」は誤解です

これはとても多くの妊婦さんから聴く誤解です。心配の内容は主に3つです。

①レントゲンを撮って大丈夫?→安定期(妊娠5〜8か月)であれば、防護エプロンを着用したうえでのレントゲン撮影は一般的な歯科治療の範囲内で実施可能です。日本歯科医師会も「安定期には安全に治療できる」と明記しています。撮影時の放射線量は、歯科用レントゲンでは1回当たり0.001ミリシーベルト程度であり、自然界の放射線から受ける量との比較でも、非常に小さな数値です。

②麻酔を使って大丈夫?→安定期であれば、適切に選択された局所麻酔薬の使用は可能です。現在歯科で使われる局所麻酔薬の多くは胎盤透過性が小さく、胎盤への侵入量は極めて少ないことが知られています。処置の内容や母体の状態によっては産婦人科医と連携することもありますが、「麻酔は一切使えない」は正確な情報ではありません。

③治療は少ない方がいい?→逆です。安定期に健診に行くことで、その後の緊急処置を減らすことができます。定期的な健康管理は赤ちゃんとの生活を考えても大切な投資です。

安定期に歯科へ行くべき理由

安定期(妊娠5〜8か月)に歯科を受診する最大のメリットは、「問題が出る前にリスクをなくせる」ことです。妊娠初期(主に妊娠3か月まで)は気分が悪く処置が制限されるため、安定期が最適な時期です。

安定期にできる歯科治療の主な内容

  • 口腔内の全体的な検査(虫歯・歯肉の状態確認)
  • 歯石とプラークの除去(スケーリング)
  • 小さな虫歯の治療(C1程度)
  • 歯肉炎の状態確認とブラッシング指導
  • 局所麻酔を用いた簡単な処置

「常にメンテナンスに通っておくことや、妊娠前に虫歯・特に外科を伴う処置(親知らずの抜歯など)は事前に完了しておいた方が、妊娠中に困らないので、事前行動を推奨します」——これが、きど歯科の院長が妊婦さんにいつもお伝えすることです。

つわりが辛い時期の口腔ケア:無理のないアドバイス

つわりの時期は歯磨き自体が苦痛になります。無理に磨こうとすると逆に吐き気を誘ったり、ストレスになります。以下の工夫で、続けることがはるかに楽になります。

歯ブラシの工夫
ヘッドの小さいコンパクトタイプに変えると口に入れやすくなります。音楽を聴くなど、気をそらす動作を入れるのも有効です。

歯磨き粉の選び方
香りが強いメントールフレーバーで吐き気を感じる場合は、無香料タイプまたは水だけでのブラッシングに切り替えてみてください。

うがいの仕方
強くぶくぶくうがいをする必要はありません。少量の水で軽くゆすぐだけで十分です。

嘔吐後のブラッシングタイミング
嘔吐後は口腔内が酸性に傾きやすくなっています。すぐに磨かず、水で口をゆすいだ後、少し時間をおいてから磨くと、エナメル質へのダメージを減らすことができます。目安は嘔吐後30分待つとよいです。

歯間のケアについて
どうしても難しい日は、水でゆすぐだけでもOKです。歯ブラシだけは続けましょう。

歯科受診の前後に見ていただきたいこと

安定期前(妊娠初期の方へ)

まず焦る必要はありません。歯ブラシをやわらかめにして、ソフトに丁寧に磨くだけで十分です。水でゆすぐだけでも構いません。そのうえで、次の点をお伝えしておくと行きやすくなります。

  • 妊娠週数を持っていること、最終月経がいつかなどを事前にメモしておく
  • 母子手帳の持参
  • 妊婦中であることを受付時に事前連絡しておくとスムーズ

安定期の初回受診で期待できること

全体的な口腔内の状態を正確に把握するために、レントゲン撮影が安定期に行われることがあります。不安に思わず、ご相談ください。歯肉の状態確認とともに、つわり期にやりやすいケアのアドバイスも個別にお伝えします。

出産後の口腔ケアについても少しだけ

出産後はホルモンバランスがリセットされ、口腔内環境が安定することで歯肉炎は落ち着きやすくなります。ただし、授乳中はホルモン変動が続くため、個人差があります。子育て中は忙しいからこそ、歯磨きを習慣として続けることが大切です。出産後3か月を目安に、振り返りの健診を受けることをお勧めします。


安定期に入ったら、まず一度きど歯科にご相談ください。お口の健康が、産まれてくる赤ちゃんと、お母さん自身の両方を守る大切な基礎になります。

※個別の症状は診察によって判断します。

出典

当院は、日本歯科医師会の会員です。
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